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2026年度 広島大学交流会報告

『民主的社会をつくるシティズンシップ教育』を読む-学校はシティズンシップ教育の中で何ができるか- EVRI定例オンラインセミナー講演会 No.202

 2026年9月4日(金)に、広島大学にてセミナーが行なわれました。本セミナーは学生主体で企画・運営も行い、著者の知見を一方的に共有する場ではなく、参加者が本書を共通の基盤として、シティズンシップ教育の理論と実践の可能性をともに探究することを目的として行なわれました。教員養成課程で学ぶ学生・大学院生が本書をどのように読み、どのような可能性や課題を見出したのかを起点に議論を行ない、その上で、ゲスト登壇者でもある、孫美幸先生(文教大学・准教授)、斉藤仁一朗先生(横浜国立大学・助教)、小貫篤先生(埼玉大学・准教授)の3名の先生方や参加者の皆様との対話を通して、シティズンシップ教育について多角的に検討する流れとなりました。詳しい内容は以下の通りです。

活動内容① 川口広美先生(広島大学・准教授)による書籍紹介

 川口広美先生より、編者の立場から本書の刊行背景と特徴が紹介されました。シティズンシップ教育の実践や研究の多様な広がりがある一方で、異なる実践や研究の交わりが不足しているという課題意識のもと、シティズンシップ教育の充実を目指して刊行されたと説明されました。また、本書のコンセプトとして、「広がりと出会い」「理論と実践の交差」「萌芽性」「批判性」の4点が示されました。

活動内容② 愛媛大学リスポンス

 愛媛大学は、大石有美香(M1)、宮﨑明野(4回生)、森田諒(4回生)の三名が発表しました。私たちは、昨年度行なった通学路安全教育の実践をもとに、学校教育におけるシティズンシップ教育の在り方を考えました。通学路安全教育では、子どもが地域の安全について考え、地域に発信した結果、実際に子どもたちの声を受けて対策が成され、子どもの声が地域の安全をつくることを実感させました。一方で、子どもたちは、すべての要望が叶えられない経験もし、限られた資源で地域の安全をつくる必要があることを体感しました。この実践から、学校教育において、「子どもを“社会をつくる主体”として捉える」ことを前提とした上で、「子どもを“社会をつくる主体になる”存在として捉える」ことも重要なのではないかという結論に至りました。また、以上の発表から、子どもを“社会をつくる主体”として捉えることは具体的に何をすることなのか、シティズンシップ教育における目的や子ども像はいかに設定するかという二つの話題提供を行ないました。

活動内容③ 広島大学リスポンス

 広島大学は、井戸浩太さん(広島大学M2)、中西美里さん(広島大学M1)・玄紀雲さん(広島大学M1)・張朝鈞さん(広島大学M1)の四名が、それぞれの経験や研究関心に引き寄せて本書を読み、話題提供をされました。

 中西さんは、第1章に着目し、政治に関心を持たない生徒をどのように包摂するか問われました。張さんからは、第2章に着目し、生徒にとって身近ではない社会問題に対してどのように関心を持たせるかという問いが提示されました。以上を踏まえ、お二人から、公共的な課題と個人の興味・関心をどのように架橋し、それらに関心をもたない子どもを含めたシティズンシップ教育をどう構想するかという論点が示されました。
 また、玄さんからは、第3章の「何よりゲストを「外国人」としてではなく、その人自身と出会うことを重視した」という部分に着目し、他者を、「同じ人間だから」と単なる一個人として透明化するわけでもなく、「○○の人は」とアイデンティティを固定化するわけでもない、関係のあり方について問われました。井戸さんは、外国にルーツのある子どもと向き合った経験から、「日本人と他者」という枠組みが非常に強い学校文脈において、「他者の呼びかけの声」をどこまで謙虚に受け止めることができるかという問いが提示されました。以上を踏まえ、お二人から、他者の記憶を分有するシティズンシップ教育が求められる中で、暗黙の「日本人らしさ」を前提とする学校教育の課題はどのようなものかという話題提供が示されました。

活動内容④ ラウンドテーブル

 両大学からの発表を受け、編著者である小貫先生、斉藤先生、孫先生から応答がありました。
 小貫先生からは、シティズンシップ教育に唯一の正解を求めるのではなく、目の前の子どもに合わせて授業をつくる重要性が指摘されました。また、教師自身が、どのような社会で、どのような市民を育てるのか、という社会観・社会科観を自覚し、言語化する必要があると示されました。
 斉藤先生からは、子どもを“社会をつくる主体”として捉えることに関して、子どもが社会のあり方を構想し、意思決定し、価値判断する学びとともに、失敗しながら学べる「練習としての社会参加」ができる場を保障することが重要であるとお話しされました。また、公共的な課題と子どもの興味関心の架橋について、子どもとの関連から生まれる面白さだけではなく、単純な出会いから生まれる瞬間的な面白さもあるのではないかと指摘されました。
 孫先生からは、シティズンシップは強い言葉であり、ヘイトスピーチにもつながりかねないと指摘されました。その上で、すべての子どもの学習権や存在を、大人たちが保障する重要性が示されました。また、多様な人やアートとの出会いを手がかりに、互いの「弱さ」を共有することで、つながりを生む可能性が示されました。
 以上三名からの応答を受け、会場から「子どもの意見を大人が単に受け入れることだけではなく、子どもと大人が共に社会をつくる経験をどのように保障するのか」「幅広い進路希望の生徒をいかに包摂した授業をつくるか」「いかに、弱さを認めながら、何かを目指していく場をつくるか」というような意見をいただき、議論されました。

 本セミナーを通して、学校教育におけるシティズンシップ教育のあり方について、捉え直す機会となりました。ご登壇の先生方、企画・運営に携わっていただいた関係者の方々、そして参加していただいた皆様、ありがとうございました。これからも、学校教育に限らず、学校外に視野を広げ、子どもたちのよりよい学びの実現に向け、シティズンシップ教育について考え、実践につなげていきます。